霧笛
ボォーーーーーーーーー。
「シャッター押してもらえませんか?」
シールドの隙間から入ってくる風が変わった。
草木の匂いの中に、微かな潮の香。
少し気温も下がっている。
パイロット国道の終点から左折、
小さな集落をいくつか抜けて、
北海道最東の街、根室。
そして、最東端 納沙布を目指す。
どうして人は、いわゆる先端が好きなのだろうか?
バイクの鼓動と動脈がシンクロ。
近づくとともに、スロットルを緩める。
昂る気持ちを抑えるように。
早く行きたいのに、わざとゆっくり。
緊張の鎮静。 ふぅっと息をつく。
霧が濃くなってきた。
左手の袖で、シールドを拭く。
ボォーーーー。 ボォーーーー。
霧笛は、私を歓迎しているのか。
霧笛が鳴り響く、本土最東端納沙布岬 碑の前。
何台か止まっているバイクの隙間に、割り込む。
ここは、国境?
何も見えぬ海の先に、あると思われる島。
我が国のものと主張しているが、、、、、。
白い霧によって、有耶無耶にされている感じ。
私がここに来たのは、それ を見に来たのではなく、
最果てを感じる為に来たのである。
何も見えなくても、達成感はある。
一種、山登りと似ているのかもしれない。
「どちらからですか?」
「今日はこれからどこへ?」
ライダー同士は、普段はピース✌サインとともに、
すれ違うだけであるが、
降りてしまえば、
何故だか仲間意識が芽生える。
「そこのキャンプ場なら、私も行く予定なので、
ご一緒しませんか?」
初対面でも不思議と、昔からの知り合いの様に、
話が弾む。
一期一会。
また会うことはないであろう人達と、
一夜限りの宴を楽しもう。
明日になれば、それぞれ別の目的地がある。
以上、1988年 晩夏。
北海道一周ソロツーリングの出来事。
では、また。
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